筑前秋月和紙: 井上賢治 ~プリンタにも使える素朴な手作りの和紙を~

プリンタにも使える素朴な手作りの和紙を (2/3)

春の桜が有名な秋月で和紙作りをされている井上賢治さん。地元ならではの紙ということで葛による和紙やプリンタ対応の和紙作りなど様々な新しい試みをされています。明治維新前後の興味深いお話とあわせてご覧ください。 (平成23年1月17日)

葛和紙 秋月にしかないものを何か作ろうかということで。

秋月和紙さんがいま作っている商品として一番売れ筋とかはどういったものなんですか?

うちはもう書画用が中心です。一番出る量が多いのは書道用、水墨を書く人とかの紙が多いですね。画仙紙とかですね。最近は壁紙とかに使われる人が、チョコチョコ多くなったんですけど、やはり書道用とかが多いですね。

もう作家さんが直接こちらに来て、こういったのを作ってくれないかとか感じでやってらっしゃる。

そうですね。厚い紙を漉けとか、ちょっと何か入れてくれとか。そういう注文とか。大体でも、作家さんは曲がった紙は嫌いやから、ながったて言うか、色んな入れた紙は嫌いやけ、白の厚いのとかですね。厚手の大きいのとかですね。そういうのが好まれますね。

この前お話聞いたときに、新しい紙ということで葛を入れた和紙を作られているということでしたが。あれは今までにはなくて、完全に新しい形で作っているものなんですか?

そうですね。そこの葛屋さんの社長さんとですね、秋月にしかないものを何か作ろうかということで。和紙と一緒にコラボをするんやったら。和紙に何か漉き込んでいこうかってことで。葛の繊維はどうかなってことで、葛の繊維はどんなものがあるんかってことで見せてもらって。じぁ、これぐらいやったら入れれると。あんまりボコボコしちょったらですね、あんまり紙として本当にクラフトの特殊な人しか使えんけ。こういう繊維状になっとるんやったら、なんとかなるよって言って一緒に漉き込んでからですね。葛の繊維状になったものをいただいて、それをこう漉き込んでいるちゅうこと。

その葛の繊維状のものというのは、その会社さんが加工した後に。

そうですね。カンネカズラ(葛蔓)の根っこを砕いて液を抽出するらしいんですよ。そうしたら根は繊維質じゃけん、どうしてもやっぱり繊維の部分だけは残るらしくて。それの残った部分は、いつも捨てよったと。ああ、もったいないと。

リサイクルになると。

うん。昔は葛で布を作りよったちゅうこともあるやないけ。葛布ってありますよね。多分、繊維を叩きながら縒りながらしたんやろうと思いますけど。そっちも繊維が出ちょるから、それやったら充分行けるよって。高い紙の洋服もあるし、葛の洋服もあるとやけん。こう一緒に混ぜてさらに強くならんやろうかて言うて、漉き上げた。

葛和紙

元々、紙はボロボロになった服を叩いてくずした物を紙にしていたとよく言われますものね。

ですね。木綿とか。昔の中国はそうやったんですかね。引き裂いて、ボロボロに裂いて溶かして漉きよったて言うけ。

それで言うと、葛布からだったら確かにできると。なるほど。

私、葛のトロッとした部分をトロロアオイみたいな感じでネリで使っているのかなと思っていたのですけど、それじゃなくて完全に繊維自体。

そうですね。繊維自体ですね。

やっぱり葛を使うことで風合いとか強さとかはどのように変わってくるんですか?

専門的に工業試験場に行ってしたわけじゃないから(笑)強さとかはどこまで強いかわからんけど。お互い繊維がからんでできるもんやから、普通の紙よりかは引きが強かろね。で、風合い的に言うと面白いというか、繊維がチリチリやからですね。結構、すごく面白い感じに仕上がると思います。

風合いが実に面白いですね。

繊維が長くても漉きにくいしですね。ちょうど細切れに切れちょる。これでランプを作っても結構良かったんですよ。ランプシェードにしても。

ランプとか本当に面白そうですね。良い具合に素朴さがある。

そうそう。一回、NHKさんが取材に来たときもこれでランプ作ったんですけど。良い感じになったから。


うちの方が細かい字で綺麗に出ちょるんですよ(笑)

いま秋月和紙さんとしてはこういったものが面白さがある。

うん。後は、パソコンで和紙に出力する人が多くなったけんですね。じゃけ、なるべくプリンタに優しいちゅうか、プリンタに負担の掛からない紙。どんな紙と言われても、、、なるべくローラーが巻きやすいような紙を作ってますけどね。

多くなったんですかね?そういう手漉き和紙に印刷をして楽しんでいる人とか。

私は、まだ認知が足りないだろうと見てますけれど。

だいぶ言われてからなるけ。もう全国じゃね、大体僕がやることと言ったら全国で出来上がっちょる人が多いけ(笑)人真似が多いけ。

綺麗な紙も面白くないっちゅうか、和紙なのかなぁと思うこともあるけんですね。じゃけ、うちはなるべくそのままの。雑と言われても手漉きで作った手作りの紙っぽいので良いのかなぁって。良い紙は本当に人間国宝さんの人たちが作る立派な紙があるけんですね。それはそれで良いやろし。人数も限られたところでやりよるしですね。

プリンタにも使える素朴な手作りの和紙っちゅうのを色にしていこうかなとは思ってるんですけどね。

できれば和紙をもっと楽に印刷できるプリンタを開発してくれればね(笑)

いまインクジェットのプリンタだったらほとんど対応できちゃいますよね。

インクジェット対応の和紙を販売している伊勢和紙さんが言っていたんですけれど、遅かれ早かれ自分の会社で量的に対応できなくなるのは時間の問題だと。そうなったときに、他の産地の人がどんどん売っていけば、それが結果的に底上げになるでしょ、て言い方をしていて。

実際その伊勢和紙さん。何か特別な処理をやっているんですか?って聞いたら何もやっていないと。薬品を入れたり、表面に塗ったりとか。何もやってないと。

うちも薬品とか入れるのかというと、入れる必要もないのかなと。

せいぜいニジミ止め程度ですよね。

でもニジミ止めしなくても充分行けないですか?普通の漉き方で。

そのようですね。実際は全く問題ない。鍵になるのは表面の平滑性だって。そこだけだと。そこをきちんとやっていれば、普通に印刷できますよね、と。

そうそうなんです。平滑性だけちゃんとしよればね。

だけどオフセットは吸い上げきらんとですよね。穴が一杯入っちょるけ。それは仕方がないけど。

オフセットについてはそうですよね。だけどそもそもオフセット印刷するぐらいの印刷物ってロットがかなり大きいわけじゃないですか。それと和紙自体の単価が高いからそんな印刷に手漉き和紙なんか使えるはずもない。

オフセットまでと考えると、そんな何万枚でしょ。

そうですよね。だけれどインクジェットのプリンタだったら和紙に直接触っているわけじゃないくて、吹き付けているわけじゃないですか。どういったものにも基本的に印刷できるわけですよ。それと自分の必要な小さな範囲で印刷していくわけだからちょうど相性は良いと思うんですよね。

あれはどげんですか?例えば、うちが出すときにどうしても耳を残すか残さんかですたいね。こういう紙でも、綺麗に耳を断裁してしもうたら、えらい良か紙に見えるちゃね。プリンタで通しても通せるんやけど。やっぱりこの風合いが良いよねって。これでやっはり印刷したいってなったときにどうしても引っかかるんですよ。ヘッドが、バシッと。ここが汚のうなってから、ああやっぱりなったねぇて感じですたいね。

じゃけ、そこをどげんクリアしようかて言うて……。どうしても耳て、欲しいし、、、。こういう風合いなんですよね。

いま僕は八女の漉き場で見た乾燥のさせ方で、ビニール袋で手押しで乾燥しよっとるですよ。刷毛で乾かさんとですよ。あれ見てから、あっ!これかっ!!て思うたんですよ。普通の刷毛で乾かしたらですね、刷毛目と押しとらんから締まらんでしょ。ところが、自分の手でギュッと押しながら鉄板に貼り付けていったらその力で綺麗になるし、その面はツルツルになる。それがプリンタには一番良いのかもしれんと。

機械でやれるんやろうけど、こきゃんは手でやった方が感じがわかるけ。良えとかなて思うて。

どうしてもやっぱり耳の部分だけはね、太くなるちゃね。じゃけん、僕のプリンタが古いかもしれんけど、どうしても最初キッと引っかかって。この辺は綺麗にできるけど、たまに太いところがインクのニジミが出てですね。ああ、これはしょうがないねぇて。仕方ないと言うけどうちの作家さんは綺麗に行けるって。

だからプリンタの能力もあるのかもしれんなぁと。

プリンタとの相性はあるみたいですね。

やっぱりそうか。相性か。

これがそうなんですけど。作家さんがこうやってしてくれちょるんですよ。

秋月和紙: インクジェット対応和紙

結構小さい字も印刷できていますよね(笑)

そうですね。本当に。

もっと簡単にこういった和紙で印刷して色々とできるんだというのは、みんながイメージ持ってくれても良いんじゃないかなぁと気がしますけどね。

そうですね。みんな高級って言うですよね。高級で使い切らんて言うし。

5年か前に、土佐に行ったときにプリンタ用の和紙を買ったんですよ。で、それで印刷したのとうちで印刷したのとで全然違うんですね。もうだいぶ前の話じゃけん、いまは質が良くなっているじゃろうけど、うちの方が細かい字で綺麗に出ちょるんですよ(笑)

本当に細かく出ていますね。

どこが違うんやろかって。高知とかの和紙処の紙なのにって思ってから。その分、嬉しかったですけど(笑)

よっしゃっ!勝った!!って(笑)

じゃけ、本当に小さくして印刷できるか、ずっと1枚A4から大きい紙から小さい紙まで作ってみて、印刷したとき大分小さいところまで見えるけ。良いなって思うて。ワープロで印字すると面白いんですよ。昔のワープロですたいね。インクリボンを使う。

インクリボンだと一番相性良いのじゃないですか?

カッコいいていうか、何かカチッとなってからね。こういう遊びはできないけど何か雰囲気がすごく良い。

もう、一種の活版印刷みたいなものですからね。

あれは良いですね。

僕のワープロは簡単なワープロやったけん。巻き込みが急やけんですからね、紙がある程度薄くて柔らかくないと折れ曲がるけんですね。そういうのがちょっと課題かなぁと。ちょっと厚い紙に印刷ができんけんですね。

色々技術はどこでヒントを得るかわからんけん。色々なところを見に行ってから、学ばなきゃいかんのじゃけん。

やっぱり八女とかねは、よう見せてくれるし。名尾和紙の谷口君もそげん隠さんで、反対に一緒に何しようかねて言うぐらいじゃけん(笑)他所は絶対見せんところもあるということじゃけん。観光客の振りをしていかないと(笑)

ですけど全般としてやっぱり、ある程度の情報共有はしなければいけなくなっているんだろうなと思うんですけど。

ですよね。こげんあれやったらですね。

いまの状況だと。

大きな紙屋さんがドーンと作る紙には負けるもんねやっぱり。

和紙風の機械漉きとかで安くなるけん。友達が包装紙で和紙風の紙を使って綺麗やねって言うたら、どこかの和紙風の包装紙で。こういう耳も付いてからですね。そんなに安いとね、て。

どげんか、何かに秀でちょかんと生き残っていけれんやけん。色々考えています。