伊勢和紙:大豐和紙工業株式会社 ~伊勢神宮のお神札からインクジェット対応和紙まで~

伊勢神宮のお神札からインクジェット対応和紙まで (1/3)

全国の神社で配布されている伊勢神宮のお神札(おふだ)。伊勢和紙さんではそのお神札をお納めしています。それと共に、インクジェット対応の和紙の販売もされて、併設の施設・伊勢和紙会館などで写真展・展示会を積極的に開催されています。  (取材日:平成22年12月17日)

日本一綺麗な宮川の水と御師(おんし)

全国、和紙の産地というのがたくさんありますけれど、やっぱり山間のところで水が綺麗なところが多いわけじゃないですか。実は何気に日本一綺麗なんですよね。ここの宮川の水は。

そうらしいです。私たち地元民としては「えっ、これ以上綺麗な川ってないの!?」というのが愕然とする事実なんですけれど(笑)

そうなんですか(笑)高知なんかの吉野川、四万十川なんかよりも実は綺麗だっていう。

どこでどのように測定したのか。たまたま綺麗な所があったんでしょうか(笑)

やっぱりその水質が和紙作りにも活きているんですかね。

宮川の伏流水を汲み上げていますから。その綺麗なはずの川の水をさらに濾過している理屈ですからね(笑)

そして伊勢神宮の神域を通りながら来ている水ですから、ありがたみもあるわけですよね。

そうですよね。やっぱり原料は他所から買ってきますけれど、水を買ってくることはできませんから。

やはり各家庭に届けるお神札(おふだ)を作るようになったというのは明治以降ということなんですか。江戸時代の頃にも御師(おんし)さんが……。

御師さんがご自分でこしらえて……。

伊勢和紙

元々は御師さんがご自身で作られていたんですか。神宮の方で作ってということではなくて御師さんが別途作っていたのですか?

江戸時代までは、御師さんが独自にお神札さんというものを考案して、そういう仕組みを考えられたということなんですよね。それが明治になってから、明治天皇の思し召しがあって、お伊勢さんがお神札を自らこしらえるようになったんです。それが今日のお神札さんなわけで。そのお伊勢さんのお神札さんを全国家庭にお届けすることになったのが明治以降の流れですね。使っている紙は最初期を除いて伊勢和紙ということになります。

それを大きくまとめた形で、お始めになっていたのが伊勢和紙さんの大本ということになるわけですか?

その当たりはなかなかハッキリしない部分もあるのですけれど。私どもは御師という制度が廃止になりましたから、そうするとその仕事に従事していた方々がいるわけですよ。そうすると御師が廃止になったらみんな仕事がなくなってしまうじゃないですか。お伊勢さんとしては新たにお神札をこしらえる事業を立ち上げないといけないんで。それは奉製員も必要だったでしょうし、紙を作る人も必要だったわけですよ。

それでお前たち紙を漉け、というわけですよね(笑)

そこから始まって(笑)それが一番の中心的な仕事の形になって、今まで112年続いてきているということなんですね。

前身もあったんですけれど、3つ有力な会社が立ち上がってきて、その3つがそれぞれで紙を漉いて収めていたわけですよ。でも会社が3つもあると品質も揃わないし面倒だから、お前らひとつになれと(笑)それでできたのがこの会社なんです。


紙に薬を塗ってしまったら見えているのは薬であって紙じゃない

伊勢和紙さんで自分自身の会社の特徴としているのが神宮御用紙(じんぐうごようし)ということになるのでしょうけど、それと最近だとインクジェット対応のものということになるのですか?

そうですねぇ。

和紙だと一般の人達ってどうしてもインクジェットだと滲んだりするというイメージが強いじゃないですか。その部分で、やはり特殊な加工とかをやることで和紙に印刷ができるようにしたりとか。そういったことで何かやられているのですか?

どこまでが特殊なのかは判りませんけれど、私どもは特殊なことは一切していないと思っています。

そうなんですか。

はい。

お使いいただいたこの紙もですね、これは原料は針葉樹の繊維なんですけれど。針葉樹の繊維はどうしてもニジミが出るんですよ。だから機械で抄く場合には書道半紙程度のニジミ止めはしています。

その書道半紙のニジミ止めにプラスして、もっと表面上のところに何かを塗ったり……、

それはしません。

そうすると素材の組み合わせの部分で色々と調整したりしている。

そうですね。

この紙に薬を塗ってしまったら見えているのは薬であって紙じゃないですよね。そうすると、それって紙屋の仕事なのかなって。薬を塗って紙を隠してしまうのであったら、どの紙でもいいわけじゃないですか。だとすると、ここに来て、うちの紙を見て良いと思ってくださる方々に対してそれを隠してしまうのは失礼なことなんじゃないかと(笑)

薬屋さんだったらどんな紙でも使って「どうです良い発色でしょ」と言えるのでしょうけど、うちは紙屋なんで「紙」を見て欲しい。

例えば、こんな風な作品の場合には余白をきちんと作りますので、そうすると紙が見えるわけですよね。

そうなんですか。私は、何らかの形で薬品とか何かを入れてんだろうとてっきり思っていたんですが。

例えば、この二つの紙の紙の違いは、全く原料は同じで。一枚は薄くて、もうひとつは厚いもの。この薄い紙を二枚重ねて乾燥させたのがこの紙になります。こういう紙のコシを作るための努力というものは、普通にこれだけの厚さのあるものを漉いて、普通に今まで漉いてきたやり方で仕上げると檀紙になっちゃうんですよ。

伊勢和紙

ははぁ、檀紙のようになっちゃうんですね。シワシワが入ってしまうような。

檀紙のようにならずに平滑な表面を作るための技術であるとか、表面の毛羽があるとどうしても……。

インクジェットのヘッドは紙には当たりませんから、ヘッドからインクが飛ぶだけですから非接触なんですけれど。非接触の範囲を超えて毛羽立ちが出ていると先っぽが汚れて、ヘッドを汚して繊維がヘッドの方に取られてしまったら他の部分を汚してしまうことが発生します。 やっぱり毛羽立ちっていうのは禁物なんです。そういう毛羽立ちを押さえるとか。それはインクジェット用に何かをしているかと言えばそういうことなんです。

物理的に使いやすい紙にする。表面を平滑にする。悪さをしないように毛羽立ちを押さえる。そういうところにはすごい神経を使っています。ですけれども紙自体に何かしているのかと言うと何もしていません。

この紙を裁断してインクジェットプリンタ対応と表示をして売っているんですけれど、対応するために何かをしたんですか?というと一切何もしていません。昔から作ってきた紙を試して「あっ、使えるね」って。もし何かをしたとしたならその確認をしただけです(笑)