伊勢和紙:大豐和紙工業株式会社 ~伊勢神宮のお神札からインクジェット対応和紙まで~

伊勢神宮のお神札からインクジェット対応和紙まで (2/3)

全国の神社で配布されている伊勢神宮のお神札(おふだ)。伊勢和紙さんではそのお神札をお納めしています。それと共に、インクジェット対応の和紙の販売もされて、併設の施設・伊勢和紙会館などで写真展・展示会を積極的に開催されています。  (取材日:平成22年12月17日)

全国チェーンで扱って欲しい気持ちは山々なんですが……。

和紙だから印刷できないんじゃないかと見られがちな部分がありますけれど、他の産地のものであってもきちんと印刷できるものもあるはずだということですよね。

あるはずだと思います。

それをきちんとした形で、対応できるということを試してみてそれを紹介できるかどうか。そこの部分で先んじているということ、

そうだと思うんですよね。たまたま私自身が下手糞ですけれど写真も撮りますし、少々パソコンが扱えたんで自分でやってみてこれで良いよって話が早かった(笑)偉い先生にお願いして使えますか?駄目ですか?って聞きに行くんじゃなくて、偉い先生じゃないけど自分で試して、

これは面白そうだと。

これだったら使えると。そういう見極めが社内でできちゃったということだけなんですよね。

印刷屋さんの方に和紙で名刺を作ってくれないかとなったとき、結構嫌がるところが多いというのは、仰っていた毛羽立ちを押さえるというところで、

そうですね。やっぱり洋紙を扱うのと和紙を扱うのは、まずコシが違うとか。それから拡大してみるとわかりますけど穴だらけなんでエアで紙を吸着できないとかね。やっぱ色々とハードルは高いですよ。だから不用意に、洋紙と同じ感覚で和紙を印刷してしまって失敗なさって「これはもうできない《ってなったらもう二度としませんよね。そういう方が多い思うんですよね。

少量だったらできると思うんです。ところが、片や1枚1円もしない紙を1000枚でも2000枚でもロスしても平気だよという世界とですね、1枚何百円、小さくすれば何十円というものを1000枚ロスするかっていうと世界が違いますから。そういうこともあると思うんですよね。1000枚ロスしてその紙代を誰が持つんだって。普通の紙だったら問題にならないですけれど、和紙だったらその難しさはあると言って良いのでしょうね。

伊勢和紙:インクジェット対応和紙

逆に言うと、インクジェットプリンタでやる小ロットの形で小口で良いものをやる。名刺なんかだったら特別な名刺として使うとか、そういった形で使っていくというのが和紙全般のひとつの方向性なんですかね。

オフセット印刷で和紙を使うというお話を頂戴するんですけれど、相手様が漠然と概念で仰っておられる場合にですね「じゃあ何部作るのだろう」とか「予算はどうなるのだろう」といったところをお尋ねすると大体そこで話か止まってしまいますよね(苦笑)

ちょっと辛いところですよね(苦笑)

無いわけじゃないんですけれど、機械抄きの和紙であったとしても一度に用意できる分量というのは印刷の世界から考えるとやっぱり、そう多くは無いんですよ。せっかくお話を頂戴しても、とてもそれは間に合いそうにありませんとか息の長いことを言わないとしょうがなくって。そうすると、今頂いたのはこれですから、今度無地の紙を漉くときはいついつなのでお納めするのはこれ位の時期になります、と。そうすると、もう待てないですよね。うちは、紙がないからと言ってよそから買ってくることはできないですからね、ここで作っているから(笑)

他の紙を作っているところだったら、実際自分のところでは作っていないけど他のところから仕入れて、中間マージンだけを取ってってやるところはありますけどね。だけどそういうわけには行かない。

そうなんですよね。そういう意味ではせっかくチャンスを与えていただいたとしても自分で潰しているというか、活かせないというか。そういう面はあるんですけど、かと言って、いつ仰って頂けるかわからないストックを作っていくわけにもいかないし。

大量に似たようなものをドンドン作るよりかは、ある程度の小ロットで、インクジェットプリンタだったら自分自身で個人で使う範囲でやっていくということだったなら、簡単にドンドン使っていけるわけじゃないですか。

個人的には和紙というのでやると、特に手漉きの人たちのものになっていくとロットが大きくなってくると対応できなくなってくるところがあるわけで。それとロットが大きなくればなるほど今度は問題になるのが材料をどうするのかというのが出てくるわけですよね。

それもありますよね。

材料をどうやって確保するのか。特に国産でやって言ったら、どうやって楮を調達するんだろうというのが物凄く問題になってくるわけじゃないですか。それを考えると、最終的には和紙の方向性としてはある程度値段の高いもの。それを小ロットで。あるいは個人で使う範囲の中で管轄していくということになるのもひとつの方向性なのかもしれませんね。

恐らくそうでしょうね。

一年間の生産力を考えても、こういったパッケージを作って全国チェーンに出せるかと言うと出せないんですよね。魅力的な全国チェーンがたくさんありますけれど。扱って欲しい気持ちは山々なんですが。すみません、そんなに作れませんの世界になっちゃうんですね(笑)

非常に微妙な部分で、じゃあ会社を大きくして行けば良いじゃないと言う人もいるのでしょうけど、大きくしたら大きくしたで問題が出てくるしというのがありますからね。


利益と雇用とのバランス 優秀な人材の確保には苦労

急激に大きくしたらやっぱりそれをどこまで維持できるかですよね。

インクジェットということで言えば、せいぜいここ4~5年の話ですからまだこれから伸ばすことができる余地はあるとは思うのですけれども。実際にご注文を頂いてお待たせして生産している状況なんで、まずもっと生産力を上げないと(笑)手漉きの職人は2人いるんですけれど、じゃあ3人でするのかい?じゃあその3人目の仕事はあるのかいということになるじゃないですか。

会社として利益と雇用とのバランスというのが一番微妙ですからね。

機械は一年間フルに動いていますから。機械の生産量を上げるとやっぱり時間を延ばしましょうか、もうそれしかないんですよね。1日8時間しか動かしていません。じゃあ9時間、10時間回せば生産量は上がります。だけど生産量は上がるのだけれども、その分残業手当を出すわけですから単価上がりますよね(笑)純粋に増えた部分だけで単価が上がった部分を賄っていくことになりますから。

現在の普通の一般の考え方は生産量が上がれば単価が下がるでしょ?と考えるのですけれど、私たちにとってはそれは真実じゃないんですね。生産量を上げると単価が上がるんですよね。もちろんやり方次第だと思うし、多くの方々はその問題をクリアしてきたわけなんで、うちにできないわけは無いとは思うんですけれども、現実にスタートするときにどこから手を付けるのかというとやっぱり難しいんですよね。

現状で微妙に良いバランスが取れているだけにということですね。

そうです。手漉きもそうです。5年前に1人だった漉き手をもう1人増やしたんです。2人にしました。それは大英断だったんですけれど、まぁそれは何とかやってるんですよね。道具とかも2人分はどうにかなったわけですけど、もう1人となったら道具をまた用意しないといけないとか、色々な面が出てきますよね。

伊勢和紙

そうですね。やっぱり道具も準備しなくちゃいけないわけですものね。そうなると余計な出費が色々と出てくるわけですね。人件費だけじゃなくて。

ええ。

そうなると色々と厄介ですね。

もちろん道具も作っていかないと私たちのような細々とした和紙業界が和紙道具の業界を支えなければいけないんですよね。和紙道具の業界は和紙業界以外に売る先が無いですから。

その和紙の道具も伊勢神宮の遷宮のように20年ごとに新しくしなければいけないとなれば良いですけれど、そういうわけにもいかないしというわけですよね(笑)

もっと使っています(笑)

ですよね(笑)できるだけ長く、長くと使っていますからね。

結局、紙を漉いたら自分で売ってこいと。自分で漉いた紙は自分で売れということが成り立てば話は早いのですけれども。最初に言ったんですよ。1人増やすときに。だけれども最初はそうだったんですが、今はもう作ることに専念してくれと言っていますから。そういった意味ではバランスしたのでしょうね。

5年前はよく考えてみると事務員が欲しかったんですよ。ある意味ではね。だけれどただの事務員を雇ったなら生産はしませんから。誰か1人の漉き手の相棒にもなるような、そして事務もできるようなつもりで来てもらったんですね。その者がちゃんと紙を漉くようになりましたから。実際その生産量が欲しかったですから結局事務員は後から入れましたから(笑)

水中で、原料の不純成分を指で取り除く作業を「水より」と言うのですけれど、その原料調製をする人員が欲しかったので、採用するときに「こんな難しい条件を出して応募してくれるかな」と思いながら探したんですけれど。機械で抄いた紙を仕上げる要員も必要でしたので募集を掛けたときに1人お願いをして、実はこういう原料の作業もしてもらわないといけないんだと。工場全体を数字で把握することも必要で、自分でやっているのだけれども手が回らなくて実はそれは苦手なんだと。やってくれないだろうかと。

結果的に生産の管理をパソコンで管理しながら、片や地味な原料の調製作業も必要なときにはやってくれるそういうものを幸運にも確保しまして。そういうことで人1人の仕事とデジタルに考えたならばどうしようもないんですけれど、大変アナログ的にこれもしてこれもして欲しいと。なかなかそういったことを職安に書けないですよね(笑)そんなことを求めている人は誰もいませんから。うちがして欲しいことって誰も想像ができないものを求めているわけですから。

そのとき必要なことを必要なように融通をつけて行くことができなければ人を増やすことはできないですよね。

それが他の産地でも一番問題として大きくて重要なことになっているのでしょうね。

そうなんですよね。